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1.

うつ病の第2選択治療、機械学習で最適化できるか

 標準的な第1選択治療である抗うつ薬単剤療法で寛解を達成する患者は、うつ病患者の3分の1未満である。適切な第2選択治療を決定するためのプロセスは、多くの場合、臨床的直観に基づいており、長期にわたる試行錯誤を伴い、患者に多大な負担を与え、最適な治療機会の提供遅延につながる。この問題に対処するため、米国・マサチューセッツ総合病院のJoshua Curtiss氏らは、第2選択治療に応じた寛解の予測精度向上を目指し、アンサンブル機械学習アプローチを用いた検討を行った。Psychological Medicine誌オンライン版2024年3月27日号の報告。 データは、STAR*Dデータセットのレベル2ステージより抽出した。本データには、第1選択の抗うつ薬治療で寛解を達成できなかった患者に対し7つの異なる第2選択治療のいずれかにランダムに割り付けられた患者1,439例が含まれた。いくつかの個別のアルゴリズムで構成されるアンサンブル機械学習モデルは、臨床指標や人口統計学的指標を含む155の予測因子についてネストされた交差検証を用いて評価した。 主な結果は以下のとおり。・アンサンブル機械学習アルゴリズムは、7つの第2選択治療全体で寛解を予測する際、分類パフォーマンスの違いを示した。・予測因子のフルセットでは、第2選択治療タイプに応じて、AUC値は0.51~0.82の範囲であった。・寛解の予測は、認知行動療法で最も成功率が高く(AUC:0.82)、他の薬剤および併用療法が最も低かった(AUC:0.51~0.66)。 著者らは、「アンサンブル機械学習は、うつ病の第2選択治療の効果を予測する可能性がある。本研究では、予測性能は治療タイプにより異なり、薬物療法よりも行動療法のほうが寛解の予測精度が高かった。今後、第2選択治療による治療反応をより正確に予測するためにも、より有益な予測モダリティの検討が求められる」としている。

2.

日本人の遅発性ジスキネジアに対するバルベナジンの有効性と安全性

 アジア人精神疾患患者における遅発性ジスキネジア(TD)治療に対するバルベナジンの有効性および安全性が、患者の基礎精神疾患により異なるかを調査するため、田辺三菱製薬のMieko Nagano氏らは、多施設共同第II/III相ランダム化二重盲検試験の事後分析を実施した。Journal of Clinical Psychopharmacology誌2024年3・4月号の報告。 多施設共同第II/III相ランダム化二重盲検試験であるJ-KINECT試験のデータを分析した。J-KINECT試験は、6週間のプラセボ対照期間とその後の42週間の延長試験で構成されており、日本人TD患者に対しバルベナジン40mgまたは80mgを1日1回投与した。統合失調症/統合失調感情障害患者(SCHZ群)と双極性障害/うつ病患者(MOOD群)において、異常不随意運動評価尺度(AIMS)合計スコアとTDの臨床全般改善度(CGI-TD)スコアのベースラインからの変化、および治療中に発生した有害事象の発生率を比較した。 主な結果は以下のとおり。・プラセボ対照期間の参加患者256例中211例が長期延長試験を継続した。・6週間のAIMS合計スコアのベースラインからの平均変化は、基礎精神疾患とは関係なく、いずれの用量においてもプラセボと比較し有効であった。【SCHZ群】40mg:-1.8(95%信頼区間[CI]:-3.2~-0.5)、80mg:-3.3(95%CI:-4.7~-1.9)【MOOD群】40mg:-2.4(95%CI:-3.9~-0.9)、80mg:-3.5(95%CI:-5.1~-1.9)・これらの結果は48週まで維持されており、CGI-TDスコアの改善においても同様であった。・治療中に発生した重篤または致死的な有害事象の発生率は、基礎精神疾患による顕著な差が認められなかった。統合失調症うつ病が悪化する割合は、基礎精神疾患の進行に起因すると考えられる。 著者らは「TDに対する長期バルベナジン治療の有効性および安全性は、基礎精神疾患によって違いが認められなかった」と報告した。

3.

精神疾患患者の不眠症と外来継続率との関連

 睡眠は、身体的および精神的な健康を維持するうえで重要な役割を果たしている。精神科を受診する外来患者は、不眠症を呈していることが多いが、各精神疾患における不眠症と抑うつ症状との関連は、依然として不明なままであった。また、不眠症と外来治療継続との関係についての研究も十分とはいえない。昭和大学の鎌田 行識氏らは、さまざまな精神疾患患者における抑うつ症状と不眠症には強い相関があると仮説を立て、不眠症が外来受診の継続率に及ぼす影響を評価した。Neuropsychiatric Disease and Treatment誌2024年3月27日号の報告。 対象は、2021年6月~2023年3月に昭和大学病院附属東病院の精神神経科外来を初めて受診し、1年間継続して外来受診した患者。臨床的特徴の評価には、うつ病自己評価尺度(SDS)およびアテネ不眠症尺度(AIS)を用いた。精神神経科受診外来患者の不眠症状と抑うつ症状を初診時および1年後に評価した。また、不眠症と関連する因子および外来治療継続率に関連する因子についても検討を行った。 主な結果は以下のとおり。・対象患者1,106例のうち、70%以上が初診時に不眠症を呈していることが明らかとなった。・1年間外来治療が継続した患者は137例であり、AISスコアが9ポイントから5ポイントに改善がみられた。・多変量解析では、抑うつ症状と不眠症のSDS項目がAIS改善に影響を及ぼす交絡因子であることが示唆された。 著者らは、「精神科を初めて受診した患者の70%は不眠症を呈していた。また、1年間外来治療を継続した患者は12.4%にとどまることが明らかとなった。外来治療を継続していた患者の多くは睡眠状態が改善したことを考慮すると、外来受診の継続は睡眠状態改善の重要な決定因子であることが示唆される」としている。

4.

認知症患者と介護者にとって重要なのは社会的なつながり

 認知症患者とその介護者が健康を保つためには活発な社会生活が必要であるが、認知症患者もその介護者も、患者の認知症が進行するにつれて社会的なつながりが失われていくことが、新たな研究で明らかにされた。米カリフォルニア大学サンフランシスコ校(UCSF)医学部のAshwin Kotwal氏らによるこの研究の詳細は、「The Gerontologist」4月号に掲載された。 Kotwal氏は、「社会的なアンメットニーズは生活の質(QOL)に悪影響を及ぼし、うつ病や心血管疾患などの健康問題を引き起こし、医療費の増加や早期死亡につながる可能性がある」と述べる。そして、「先行研究では、社会的孤立度が高い高齢者は、介護施設に入所するオッズが2倍以上になることが示されている」と説明している。 この研究では、認知症患者26人、現介護者33人、および介護相手を亡くした元介護者15人に対する半構造化面接のデータの二次解析が行われた。認知症患者の平均年齢は80歳(範囲67〜94歳)、介護者の平均年齢は67歳(範囲40〜87歳)だった。 データの解析により、三つの主要なテーマが特定された。一つ目は、認知症患者もその介護者も、患者の病気が進行して全体的なウェルビーイングと支持的な資源(何らかの目標や活動を支援するための資源や手段)の活用能力に影響が及ぶにつれ、社会的なつながりを失っていくことである。例えば、患者の記憶力が衰え会話が困難になるにつれ、患者の家族や友人は、患者の存在に不快感や戸惑いを感じることが増え、その結果、社会的なつながりは弱体化していった。また、患者の配偶者や成人の子どもなどの介護者は、患者に対する責任の増大に伴い孤立度を高めていた。二つ目は、認知症患者の認知機能と身体機能の悪化に伴い患者と介護者の関係性が崩壊し、それが介護者に孤独感と喪失感をもたらしていること。三つ目は、介護者が患者と共有できる社会的な活動を積極的に行ったり、介護者の負担に対処するプログラムに参加するなどの適応戦略を活用していることである。 研究グループは、「これらの結果から示唆されるのは、患者と介護者の双方に孤独と孤立についてのスクリーニングを定期的に行い、医師が、患者と介護者が社会的なつながりを維持する方法を見つけられるようにするべきだということだ」と述べている。 論文の上席著者である、UCSFグローバル・ブレイン・ヘルス・イニシアチブのKrista Harrison氏は、「患者とその介護者がそれぞれ別個に参加する支援グループは、ストレスを減らして楽しめる社交の場となり、また、助言を得る場となる可能性がある」と話す。 またHarrison氏は、「臨床医は、認知症患者とその介護者のために作られた地域合唱団のような選択肢について話し合うべきだ」と主張し、「先行研究では、認知症が進行しても有意義な活動を楽しむことができることが示されている。例えば、教会での礼拝への参加を、自宅でのZoom(ズーム)を通じた小規模な集まりへの参加に変更するような、簡単な適応方法が考えられる可能性がある」と話している。 なお、本研究結果は、UCSFの研究者らが実施した、片方の配偶者が認知症である夫婦を対象にした最近の研究結果と一致するという。その研究では、認知症のパートナーと親密な関係性を築いていた人は、配偶者の認知症発症により、発症前より孤独感が高まったが、結婚生活がうまくいっていない人では、うつ病や孤独感を抱えている人の割合は全体的に高かったものの、配偶者の認知症の発症はそれに影響を与えていないことが示されていた。 Kotwal氏は、「良い夫婦関係やパートナーシップを築き、それを維持するために力を注いでいる人は、パートナーの一方が認知症になったときに失うものが大きい。これに対し、夫婦の質が低い人は、孤独やうつ病から守ってくれる結婚生活からの感情的な支えをすでに失っているのだ」と話している。

5.

あなたの睡眠のタイプは?四つの睡眠パターンを特定

 平日は睡眠不足で週末に寝だめしたり、あるいは一晩中寝返りを打って過ごし、朝は頭がはっきりしないといったことがないだろうか。それとも、睡眠時間は十分に確保できているだろうか。米ペンシルベニア州立大学、睡眠・ストレス・健康(STEALTH)研究室のSoomi Lee氏らが、米国の全国調査参加者約3,700人を対象に、およそ10年の間隔を空けた二つの時点のデータを分析したところ、睡眠習慣は四つの異なるパターンに分類できることが明らかになった。この研究結果は、「Psychosomatic Medicine」に2月16日掲載された。 Lee氏は、「睡眠は、毎日繰り返し行う行動である。より良い睡眠習慣は、社会的な関係や仕事のパフォーマンスの向上から、長期的な健康行動や健康的な老化の促進まで、多くの重要な違いを生み出すことにつながる」と話す。 この研究では、Midlife in the United States研究のデータを用いて、研究参加者3,683人から、2004〜2006(T1)年と2013〜2017年(T2)の2回に分けて収集された睡眠習慣と慢性的な健康上の問題に関するデータの分析が行われた。データには、参加者の自己報告による睡眠の規則性や睡眠時間などの睡眠習慣、睡眠に対する満足度、覚醒度、慢性疾患の数や種類などに関する情報が含まれていた。 分析により、睡眠習慣によって対象者を以下の四つの異なるパターンに分類できることが明らかになった。・良い睡眠習慣保持者:二つの時点のいずれでも最適な睡眠習慣を維持している。・週末に睡眠を取り戻す人:睡眠が不規則で、平均睡眠時間は短いが週末や仕事のない日の睡眠時間は長い。・不眠症の人:睡眠時間が短く、日中はひどい疲労感に襲われ、入眠までに時間がかかるなどの不眠症の症状を抱えている。・昼寝の習慣がある人:夜間の睡眠は概ね良好であるが、昼寝をすることが多い。 対象者の半数以上は、不眠症であるか昼寝の習慣を持っていた。また、77%の参加者はT1とT2の間に同じ睡眠習慣を維持しており、特に不眠症か昼寝の習慣を持っている人は、時間の経過とともに睡眠習慣が変わる可能性が最も低かった。さらに、T1とT2の両時点で不眠症だった人では、両時点ともに良い睡眠習慣を維持していた人に比べて、心血管疾患、糖尿病、うつ病、フレイルのリスクが72〜188%高かった。この他、年齢は睡眠に関連しないようであった一方で、高齢者や定年退職者の中には昼寝の習慣を持っている人が多く、さらに、教育歴の低い人や失業者には不眠症の人が多いことも示された。 研究グループは、「この研究は、主に健康な成人を対象としているため、全人口を代表するサンプルではなかった可能性がある。それでも、ほとんどの対象者は最善の睡眠習慣を持っておらず、過半数が不眠症であるか日中に睡魔に襲われて昼寝をする人であった」と話す。 Lee氏は、「われわれが得た結果は、睡眠習慣を変えることは非常に難しいことを示唆している可能性がある。また、睡眠の重要性や睡眠の健康行動に関する理解が広まっていないことを表している可能性もある」と述べている。その上で同氏は、良質な睡眠の健康に関する教育の大切さを強調し、「寝る前にベッドの中で携帯電話を使わない、定期的に運動をする、午後遅くにカフェインを摂取しないなど、睡眠を改善するためにできる睡眠衛生行動がある」と説明している。 研究グループは、「良質な睡眠を促すための介入が大いに必要とされている。介入により睡眠の問題点を明らかにすることで、慢性疾患のリスクや経済的脆弱性などの要因に基づいて介入策のターゲットを絞ることができる可能性がある」と結論付けている。

6.

統合失調症における安静状態と作業状態の機能的接続異常

 統合失調症の主な病理学的仮説として、聴覚処理障害と大脳ネットワーク内の接続不全が挙げられる。しかし、多くの神経画像研究では、統合失調症患者の安静状態またはタスクに関連した機能接続障害に焦点が当てられている。九州大学の高井 善文氏らは、統合失調症患者の聴覚定常状態応答(ASSR)タスク中の血中酸素濃度依存性(BOLD)シグナル、安静状態およびASSRタスク中の機能的接続性、安静状態とASSRタスクの状態変化について、検討を行った。The European Journal of Neuroscience誌2024年4月号の報告。 対象は、統合失調症患者25例および健康対照者25例。スキャナーノイズによる機能への影響を軽減するため、安静状態およびスパースサンプリング聴覚fMRIパラダイムを採用した。聴覚刺激は、周波数20、30、40、80Hzのバイノーラルクリックトレインとした。検出されたASSR誘発性BOLDシグナルに基づき、安静状態とASSRタスク状態における視床と両側聴覚皮質の機能接続およびそれらの変化を調査した。 主な結果は以下のとおり。・統合失調症患者では、80HzでASSRタスク中に視床および両側聴覚皮質でBOLDシグナルの有意な減少が認められた(補正済みp<0.05)。・統合失調症患者の視床聴覚ネットワーク内の機能的接続の変化において、安静状態とASSRタスク状態とでは、有意な逆相関が認められた。・統合失調症患者では、安静状態の機能接続性がより強く(p<0.004)、ASSRタスク中の機能的接続性の低下が認められ(p=0.048)、これは異常な状態変化により媒介されることが示唆された。 著者らは、「統合失調症患者における安静状態と作業状態との移行の欠陥に関連する異常な視床皮質接続の存在が示唆された」としている。

7.

特殊なMRIが治療抵抗性統合失調症の予測に有用か

 特殊な脳スキャンによって、精神病患者が治療に反応しない(治療抵抗性)統合失調症に移行するかどうかを正確に予測できる可能性があるとする研究結果を、アムステルダム大学(オランダ)のMarieke van der Pluijm氏らが、「The American Journal of Psychiatry」に3月13日報告した。 この脳スキャンは、中枢神経系のニューロメラニンと呼ばれる色素を測定するもので、ニューロメラニン感受性(neuromelanin-sensitive)MRI(NM-MRI)と呼ばれる。この色素を視覚的に示すことで、ドーパミンの機能レベルを知ることができる。ドーパミンは脳の報酬系から分泌される神経伝達物質の一つで、やる気や幸福感、運動調節に関わっている。そのため、ドーパミンの分泌過多は精神病に付随する攻撃性や衝動制御の低下をもたらす可能性がある。 研究グループは、「治療抵抗性の統合失調症患者を早期に見つけ出し、そうした患者に対する有効性が証明されている唯一の抗精神病薬であるクロザピンによる治療のタイムリーな開始を促すためのマーカーが喫緊に必要とされている」と述べている。治療に反応しない統合失調症患者では、治療してもドーパミン機能が増強しない。研究グループは、「このことは、NM-MRIによるニューロメラニンの評価(ドーパミン機能の指標)が、治療抵抗性の患者を早期に発見するためのマーカーとなる可能性のあることを示唆している」と述べている。 今回の研究では、初回精神病(統合失調症)エピソードを有する患者79人と、これらの患者とマッチさせた健康な対照20人にNM-MRIスキャンを実施した。また、その6カ月後の追跡調査時に治療応答性の評価を行った。抗精神病薬を2回使用後も、妄想、幻覚、異常な姿勢、異常な思考の五つの領域のいずれかに中等度または高度の症状が認められた場合、一種類の抗精神病薬で効果が認められなかったか重篤な副作用が生じた場合、あるいは追跡調査中にクロザピンに変更された場合は、「非応答」と見なされた。 その結果、ベースラインのNM-MRIでは、15人の非応答者で、ドーパミンニューロンが豊富な脳領域(黒質)の信号が有意に低いことが明らかになった。また、ニューロメラニンの評価に基づくことで、どの患者が治療に反応するかを最大68%の精度で予測できると推定された。追跡調査を受けた治療応答者28人と非応答者9人では、6カ月間の間にNM-MRIの信号強度に変化は認められなかった。 研究グループは、「本研究により、NM-MRIが統合失調症患者における治療抵抗性の非侵襲的マーカーとして早期から有用であることが示唆された」と結論付けている。その上で、「最終的には、適切な予測モデルによって統合失調症における治療抵抗性を早期に同定することが可能となり、それによって効果的な治療が遅れる患者の数を大幅に減らし、転帰を改善することができるようになるだろう」との見通しを示している。

8.

うつ病に対するブレクスピプラゾール補助療法の有用性

 うつ病患者は不安症状が高頻度でみられ、そのような患者では抗うつ薬に対する治療反応が低下し、機能的な悪影響につながる恐れがある。カナダ・トロント大学のRoger S. McIntyre氏らは、不安症状を伴ううつ病患者における補助的ブレクスピプラゾール治療の抑うつ症状および機能に対する有効性を評価するため、ランダム化二重盲検プラセボ対照試験(RCT)の事後分析を実施した。Journal of Clinical Psychopharmacology誌2024年3・4月号の報告。 うつ病患者および抗うつ薬治療で効果不十分な患者を対象に、補助的ブレクスピプラゾール治療6週間RCT3件よりデータを抽出した。患者は、DSM-Vの不安による苦痛(anxious distress)に準じて層別化した。ベースライン時から6週目までのMontgomery Asbergうつ病評価尺度(MADRS)の項目スコアおよびシーハン障害尺度(SDS)の平均スコアの変化について、補助的ブレクスピプラゾール治療群(2mg、2~3mg)とプラセボ群で比較を行った。 主な結果は以下のとおり。・ベースライン時に不安による苦痛を感じていた患者は、746例中450例(2mg分析:60.3%)および1,162例中670例(2~3mg分析:57.7%)であった。・不安による苦痛を伴ううつ病患者において、補助的ブレクスピプラゾール治療群は、プラセボ群と比較し、MADRSの項目スコア(悲しみ)の改善が認められた(p<0.05)。悲しみ、内面的緊張、睡眠の減少、食欲低下、倦怠感、無感情、悲観的思考の改善が報告された(Cohen d エフェクトサイズ:0.18~0.44)。・同様に、SDS平均スコアの改善も認められた(エフェクトサイズ:0.21~0.23)。 著者らは「補助的ブレクスピプラゾール治療は、抗うつ薬治療で効果不十分なうつ病患者および不安による苦痛を伴う患者において、中核症状である抑うつ症状や睡眠、食欲、機能の改善に有効であることが示唆された」としている。

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名を変え、実を取りたい「エンディングノート」【外来で役立つ!認知症Topics】第16回

高齢化社会になってから、われわれが若い頃と比べると、テレビ、新聞や書籍のターゲット層の年代はぐっと高まった。NHKの歌謡番組などは、懐メロ一色に見える。私はときに、出版社などマスコミの関係者で、高齢者向けの記事や番組制作の担当者とご一緒させていただく。近年、こうした方々にみられがちな傾向があると思っている。どなたも「高齢者への配慮と敬意」を示す言葉遣いをなさる。ところが、以前から言われてきた「老いの神話」、つまり老いた者への軽視・哀れみという価値観は、現代の彼ら・彼女らにも伝わっているように感じてしまうのである。70歳代の知人から次のようなお手紙をいただいた。「年寄り向けの本がいろいろ出るのはありがたい。しかし70歳にもならない筆者に、われわれ高齢者の気持ちがわかっているとは思えない。まして編集など出版の実務に携わり、売れ行きを考えるのは30~40代の若手だろう。だから現実離れしたことが、堂々と世間に流布している」と。これに似たコメントは結構多い。「エンディングノート」という名称の違和感ところで「エンディングノート」という名を初めて聞いたときの第一印象は、なんと粗雑で気配りのない名前だろうという不快感だった。その意味はわかる、しかし何と当事者への配慮を欠く命名かと感じた。要は「あんた、もうすぐ終わり。相続などで皆を喜ばせ、また迷惑をかけないように」だよね、と。この印象は今でもまったく同じだ。ならばせめて日本語では、「未来への連絡帳」とか、「賢者の一筆」とか当事者の気持ちが少しは明るく前向きになるものに変えてほしいものだ。さて聞くところでは、この種の出版物は、とくに敬老の日の前後に書店では目立つ場所に置かれるようだ。この時期に限らず、全国の書店では、比較的安定した売れ筋の商品だと聞く。そして買う人は、1回きりでなく繰り返し購入するリピーターになる傾向もあると。その最大の理由は、買って、書き始めても書き終えないからだ。あるいは「あの頃はそう思って書いたけど、今は違う考えになった」という声もあった。いずれにせよ完成する確率は低い。そもそもエンディングノートを書く意味はどこにあるのだろうか? ある専門家が簡潔に話してくれた。目的は、「こんな場合はこうしてほしい」と、老い先を託す人にできるだけ負担をかけずに支援を具体的に依頼することだ。立場を変えると、老い先を託された人が困らないようにする予告メッセージとも言える。そこでは課題ごとの要望を述べるのはもとより、できる限りその財源を明示すべきだろう。いずれにしてもこの種のことは、積極的に考えたくない事柄。それだけに明文化されたものを前にして向き合えば、双方の覚悟が多少とも定まると教わった。何を書くべきか? 必要最小限の4項目そこでは何を書くべきか? この種の本を読むと、ものによっては圧倒されるほど多くの項目が並んでいる。しかし筆者は自分事として考えたとき、次の4項目が必要最小限だと思う。まず認知症などになったときの介護・施設。また終末期医療についての希望も不可欠だろう。そして財産・相続の重要性は言うまでもない。最後に葬儀と役所等への各種の届け出も欠かせない。これらの回答に先立つ最大のポイントは子供の数だろう。1人なら簡単だが、2人以上だと難易度が高まる。経験的に考えると、終末期のケアをお子さんたちが平等にシェアするのは例外的で、誰か中心になるお子さんがいるのが普通である。中心役を誰に託すかで、悩む人は多い。託したい人には他の子より遺産分配が多くなるのが当然だろう。となると誰しも自分亡きあとの子孫間の確執を連想する。「難し過ぎる」、「想像がつかない」、「考えたくない」となって、「うまくやってくれるはず」で終わってしまう。さて問題はここからだ。実行が難しくても書き上げなくてはならない。この領域の専門家は次のように述べる。まず遅くとも75歳までには仕上げること、さもないと仕上げへの意欲も合理的な判断力も失われてしまうから。次に、当事者である親子の話し合いが出発点だが、信託銀行など企業を排除することだと言う。なぜなら企業の関与は当事者にとって得でないことが多いからだそうだ。したがって、合法的、合理的な生前贈与を勧める。ちなみに、筆者は最近、『徒然草』において吉田 兼好が生前贈与を勧めていると知った1)。これらが当事者の努力なら、行政や法曹界からも工夫が必要だろう。まず家庭の人間模様に応じた典型例のケーススタディは欲しい。それぞれのポイント解説や法的・制度的なレクチャーは不可欠だ。また個々人の「考えたくない」点を中心に相談し、解決策を探るには、有資格のコンシェルジュの育成や制度も要るだろう。加えて多くの国民に、これは自分事と思っていただかねばならない。過去に自死予防のためにうつ病の初期発見に注目した「お父さん眠れている?」いうキャッチフレーズが広まった。この先例に倣って、ご本人が当事者で国民なら誰でもが知っている著名人に「私はこうやって書き終えました」とやってもらえないかと愚考する。参考1)吉田 兼好. 『徒然草』第百四十段「身死して財残る事は、智者のせざる処なり」.

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統合失調症治療における抗精神病薬単剤療法と多剤併用療法の有効性

 統合失調症スペクトラム障害患者の抗精神病薬単剤療法と多剤併用療法について、救急での使用状況、興奮や攻撃性を伴う症状、再入院に対する有効性の違いは、いまだ明らかになっていない。トルコ・チャナッカレ・オンセキズ・マルト大学のSukru Alperen Korkmaz氏らは、同患者における抗精神病薬の単剤療法と多剤併用療法のリアルワールドでの有効性を評価するため本研究を実施した。Journal of Clinical Psychopharmacology誌オンライン版2024年3月5日号の報告。 本研究は、救急受診で入院した統合失調症スペクトラム障害患者669例を対象に、電子健康記録のデータを用いて実施された。対象患者を初回入院時の抗精神病薬使用状況に応じて、(1)抗精神病薬の服薬アドヒアランス不良期間が90日超、(2)同期間が15~90日、(3)抗精神病薬単剤療法、(4)同多剤併用療法の4群に分類した。すべての患者を初回入院後1年以上フォローアップした。主要アウトカムは、初回入院後の抗精神病薬単剤療法群と多剤併用療法群における、すべての原因による精神科入院との関連性とした。 主な結果は以下のとおり。・抗精神病薬の服薬アドヒアランス不良群は、単剤療法群または多剤併用療法群と比較し、救急受診率が高く、入院および、興奮や攻撃性を伴う入院が多かった。これらの結果には、単剤療法群と多剤併用療法群で差が認められなかった。・単剤療法群と多剤併用療法群の入院リスクに差はみられなかった。・フォローアップ期間中、退院後の再入院率は、単剤療法群と多剤併用療法群で差が認められなかった。 結果を踏まえて著者らは、「抗精神病薬の単剤療法より多剤併用療法を推奨する明確なエビデンスはなく、治療抵抗性でない患者では、抗精神病薬の単剤療法が多剤併用療法よりも望ましい可能性が示唆された」としている。

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本「ギネスブック」【2位じゃダメなんでしょうか?(「天才ビジネス」のからくり)】Part 1

今回のキーワード心の癖(認知バイアス)1位バイアス概念化自閉スペクトラム症統合失調症権威バイアスランキングビジネス比較癖皆さんは、世界一と聞くとワクワクしませんか? さまざまな世界一の記録を集めた本がギネスブック、現在の正式名は「ギネス世界記録」です。そして、これは独自のガイドラインに従って世界一の記録を認定する組織でもあります。それにしても、あの政治家の有名なセリフを借りれば…世界一になる理由は何があるんでしょうか?2位じゃダメなんでしょうか?今回は、ギネスブックを取り上げます。いつもと違い、シネマセラピーのスピンオフバージョン、「ビブリオセラピー」(読書療法)としてお送りします。この本を通して、私たちの心に潜む、1位に過剰な価値を付けたがる心理を掘り下げます。その心理を踏まえて、1位から「天才」を祭り上げる「天才ビジネス」のからくりにも迫ります。さらに、おまけとして、2位以降の順位付け(ランキング)も気になってしまう心理も掘り下げてみましょう。1番であることで過剰に価値が付けられるギネスブックでは、「最も」という言葉によって、大きさ、長さ、多さ、そして速さなどを主に認定しています。たとえば、これまで最も高い身長は272cmで、その人の写真を見たことがある人は多いでしょう。一方、2番目に身長が高い人は知らず、そこまで興味もありません。やはり、1番であることにとくに大きな注目が向きます。実際に、2番目はギネスブックに載りません。しかし、世界で何千番目であっても、日本で1番目となると、また気になります。私たちは、当たり前すぎてあまり気にも留めませんが、明らかに何かで1番であることで過剰に価値が付けられていることがわかります。これは、私たちの心の癖(認知バイアス)です。しかし、このバイアスには名前が見当たりません。近いバイアスとしては、権威によって価値が付けられる権威バイアスが挙げられます。しかし、このバイアスは1位だけでなく、2位以降の人たち、専門家、権力者にもかかり、概念として広いです。また、希で少ないことで価値が付けられる希少性バイアスが挙げられます。しかし、このバイアスは1番ではなくても、ただまれで少ない人や物にもかかり、概念としてやはり広いです。よって、より正確に言えば、「1位による権威と1位以上は1人だけという希少性の両方の要素を併せ持ったバイアス」です。ただ、長たらしいので、この記事では「1位バイアス」と名付けます。逆に価値を付けるために1番になるカテゴリーがつくられるギネスブックでは、走りながら手作業をするなど、2つの行動の組み合わせの「最も」も多数認定されています。また、「最も」多い人数でやる同じ行動も認定されています。さらに、16歳未満の「子供限定記録」の部門も新しくできています。あまりにも細分化されてしまい、「記録のための記録」になっているようにも見えてきます。つまり、もともとあるカテゴリーで1番であることに価値が付けられていたのに、逆に価値を付けるためにあえて1番になるカテゴリーがつくられるようになっています。すごいから1番なのではなく、1番だからすごい(はずだ)という認知的なすり替えが起きています。これは、世界的に有名なあるサッカー選手の名言にも通じます。それは、「強い者が勝つのではない。勝つ者が強いのだ」です。私たちは「強い者」(1番)につい目が行きがちだけど勝負の世界はわからないよというメッセージです。逆に、このような「1位バイアス」をうまく利用することもできます。たとえば、プロフィール紹介で、「大学で首席だった」はわかります。しかし、「全国模試で1位だった」は中身がよくわからないですが、何かすごそうと印象付けることができます。そもそもなんで1番であることで過剰に価値が付けられるの?それでは、そもそもなぜ1番であることで過剰に価値が付けられるのでしょうか? もちろん、特許や著作権などの権利を第一人者に与える法的な場合はわかります。しかし、そうじゃない場合はどうでしょうか?その答えは、脳の解釈装置が働くからです。これは、概念化と呼ばれています。私たちの脳は、社会生活を送る中、すべての体験をそのまま丸ごとは覚えきれません。そのため、ざっくりとしたイメージや言葉(概念)に置き換えています。進化心理学的に考えれば、原始の時代、たとえば「1番のしっかり者が長(おさ)」としてみんなが認めたわけですが、年を取ってしっかりしなくなっても「長(おさ)だから1番のしっかり者」とみんな思い込んでいたほうが、リーダーが簡単に交代せずに部族の上下関係が安定します。「1番助け合うから親友」として認めたわけですが、疎遠になっても「親友だから1番助け合う」と思い込んでいたほうが、協力関係が保てて人間関係が安定します。「1番すばらしい異性が自分の妻(夫)」として選んだわけですが、年月が経っても「自分の妻(夫)だから1番すばらしい」と思い込んでいたほうが、離婚せずに家族関係が安定します。このように解釈(概念化)に偏り(バイアス)があったほうが、部族としてより生き残り、夫婦としてより子孫を残したでしょう。このような「長(おさ)」「親友」「夫婦」などは概念であり、これが、「1位バイアス」という概念化の起源です。これは、「すごい」ということ(概念)にすごいと思うことです。ちょうど、逆の「ダメだ」ということにダメだと思うマイナス思考(回避性パーソナリティ)や、不安であることに不安に思う予期不安(パニック症)と同じ心理メカニズムです。なお、概念化の起源の詳細については、関連記事1をご覧ください。次のページへ >>

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本「ギネスブック」【2位じゃダメなんでしょうか?(「天才ビジネス」のからくり)】Part 2

実は「天才」は存在しない!?1番であることで過剰に価値が付けられているのは、概念化という脳の解釈装置が働くからであることがわかりました。それは、「すごい」ということにすごいと思うことでした。実はこれは、「天才」という概念に重なります。天才とは、天性の才能、つまり生まれつきのものであり、努力だけでは得られないものとされています。たとえば、「天才物理学者」「天才ピアニスト」「天才プレーヤー」「天才クリエイター」「天才子役」「天才棋士」「天才起業家」「お笑いの天才」のように、突出して何かを達成した人です。しかし、よくよく考えると、このような認知能力にしても身体能力にしても、ある能力について、その達成度のレベルをグラフ化すれば、正規分布になります。より厳密に言えば、正規分布になるようにその能力のレベル分け(判定基準)を意図的に人間がつくっていると言えます。たとえば、お笑いでさえ、漫才や大喜利などを競技化して判定基準を形式としてつくることで可能にしています。その正規分布の最も右端の先細りした部分は、1位であり、1人しかいません。当たり前ですが、ナンバーワンでオンリーワン、いわゆる類いまれです。つまり、天才だから類いまれなのではなく、 類いまれだから天才と呼んでいるだけです。実際の研究では、世界で上位0.03%に入る「天才」と呼ばれる約1,400人のゲノム(全遺伝子配列)の分析を行ったところ、一般人との違いはないとの結果が出ました1)。つまり、天才は「天性(遺伝性)の才能」とされていながら、その遺伝子は突き止められなかったのでした。このことからも、実は「天才はいる」のではなく、私たちが無意識的にも意識的にも「天才にしている」だけであることがわかります。なお、天才とされる人たちは、通常の人と違う飛び抜けた能力を発揮(発達)している点で、自閉スペクトラム症や統合失調症などの非定型発達と関係があることは指摘されています。これらの詳細については、関連記事2、関連記事3をご覧ください。「天才ビジネス」のからくりとは?世の中では、天才とされる人たちに注目が集まり、ビジネスになっています。たとえば、「天才〇〇」の著作や関連の啓発本から、テレビ出演、講演会、グッズ、さらには「〇〇の天才を生んだ母親」の著作や講演会にも広げられています。また、「天才を育てる幼児教育」もよく見かけます。しかし、先ほど触れたように、天才はそう仕立て上げられ、私たちが思い込んでいるだけです。これ自体、良くも悪くも、私たちの文化です。つまり、天才とは、絶対的な存在ではなく、相対的にたまたま1位になった人を私たちの社会の文化によってそう意味付け価値付けた単なる記号であり、称号であり、フィクションであると言えます。これが、「天才ビジネス」のからくりです。そして、これは、「天才ビジネス」にとって不都合な真実でしょう。もちろん、天才として祭り上げるこのフィクションを1つの文化として楽しむことはできます。しかし、「天才」という言葉に踊らされて、むやみにビジネスに利用されないように、私たちは賢明になる必要もあるでしょう。これは、権威や希少性に振り回されないようにするのと同じです。ギネスブックとは?実は、ギネスブック自体も、「最も売れている年刊本」として自らギネス世界記録に認定しています。結局、ギネスブック自体も「1位バイアス」を利用して、自らの売り上げにちゃっかり貢献して、ビジネスとして回っているわけです。この記事の最初に問いかけた質問は、「世界一になる理由は何があるんでしょうか?」「2位じゃダメなんでしょうか?」でした。この答えは、私たちが文化的に楽しむためと言えるでしょう。そして、2位じゃダメではまったくないのですが、私たちが2位じゃダメと思う原因は「1位バイアス」「天才ビジネス」に惑わされているからと言えるでしょう。<< 前のページへ | 次のページへ >>

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本「ギネスブック」【2位じゃダメなんでしょうか?(「天才ビジネス」のからくり)】Part 3

おまけ先ほどまで、私たちが「1位バイアス」「天才ビジネス」にとらわれている心理に迫りました。ここからはおまけとして、私たちが2位以降の順位付け(ランキング)にもとらわれている心理を掘り下げます。ランキング上位であるというだけで価値が生まれる世の中では、「〇〇ランキング」「〇〇の格付け」が溢れています。もちろん、私たちがそれを参考にして、物を買ったりサービスを利用して、社会生活をより充実させているのはよくわかります。ちなみに、このコラムにも「人気記事ベスト3」を自動更新できるようにして表示しています。しかし同時に、ランキングが上位であれば、勝手に好印象を持ってしまってもいます。つまり、人気(価値)があるからランキング上位であったのに、ランキング上位であるというだけで人気(価値)が出るようになってしまっています。これは、先ほどにも触れた権威バイアスによるものです。逆に人気を生み出すためにランキングをつくるよくよく考えると、細かく順位付けする必要がないものまでも、私たちはランキングがあるとつい見てしまいます。たとえば、先ほども触れたお笑いや、演技、美術品です。また、ギョーザ好きの地域、本好きの地域などです。これらは、好きか、楽しめるか、価値があるか自分で決めればいいだけで、他の人や地域全体がどうかは気にする必要はないはずなのにです。これは、心理学で比較癖とも呼ばれています。つまり、もともと価値があるからランキングをつくっていたのに、逆にランキングをつくることで価値を生み出しています。これは、ランキングによって注目度を高めていることから、「ランキングビジネス」と名付けることができます。これも、権威バイアスによるものです。もっと言えば、そのランキング自体(ランキング会社)にも、それだけ注目されるために価値が生まれています。このランキングビジネスを巧妙に利用しているのが、進学校の偏差値ランキングや有名大学に進学する出身高校ランキングです。情報化した現代社会で、高校にしても大学にしてもその教育機能にそれほど差はないでしょう。「秘伝の教育メソッド」があったとしても、すぐに広まります。しかし、このようなランキングがあることで、より偏差値ランキング上位の学校に、より偏差値ランキング上位の生徒が集まります。よほどその学校が世間とズレた教育をしていない限り、とくに上位の学校のランキングは不変です。当たり前の話です。つまり、学校間のランキングに差があるとしたら、それは学校教育そのものにあるのではなく、集まる生徒のもともとの認知能力にあるということです。そもそもなんでランキングにとらわれているの?それにしても、そもそも私たちはなぜこれほどにもランキングにとらわれているのでしょうか?進化心理学的に考えれば、私たちの祖先がまだ類人猿だった約2000万年前、彼ら(サルたち)はケンカの強さをもとにした序列(上下関係)によって群れをつくるようになったでしょう(社会性)。実際に、集団で暮らすサルたちは、ケンカしている仲間の2匹のサルを見て、それぞれ自分との力関係を推し量っていることがわかっています2)。これが、ランキングの起源であり、比較癖の起源です。つまり、私たちがランキングにとらわれているのは、人類が社会(集団)を維持するために必要な機能の1つだったからです。その後に、先ほどご紹介した脳の解釈装置(概念化)が発達したことによって、そのランキングに過剰な価値が付けられるようになったのです。これが、権威バイアスの起源です。1)「脳科学的に正しい一流の子育てQ&A」P5:西剛志、ダイヤモンド社、20192)「人は感情によって進化した」P47:石川幹人、ディスカヴァー携書、2011<< 前のページへ■関連記事インサイド・ヘッド(続編・その3)【意識はなんで「ある」の? だから自分がやったと思うんだ!】ガリレオ【システム化、共感性】ビューティフルマインド【統合失調症

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超加工食品の安全性を十分に吟味することなく、利便性・時短性を優先するのは危険!―(解説:島田俊夫氏)

 超加工食品は現代社会において利便性・時短性の面から今や世界中で重宝される食品となっています。しかしながら、利便性が高くても健康被害が増える食品であれば逆に寿命の短縮につながる可能性が高く、食の安全性を吟味することは必要・不可欠です。 超加工食品の過剰摂取(食品の10%を超えると危険が増大)は生活習慣病(心血管病/がん/糖尿病/肺疾患)、認知症、うつ病、短命(早死)、肥満らを引き起こす可能性大といわれています1-3)。 最近話題になっている超加工食品のマイナス面に照準を絞り警鐘を鳴らす論文が散見されています。この度、オーストラリア・ディーキン大学Melissa M. Lane氏らは超加工食品に関して有害アウトカムを評価した多数の先行研究(コホート研究・症例対照研究・システマティックレビュー・メタ解析)を集約し、アンブレラレビューを行った。その結果がBMJ誌2024年2月28日号に掲載された。時宜にかなった関心の高いトッピクと考えコメントします。 簡単な要約:超加工食品の摂取増加は心臓病、がん、肺疾患、精神障害、短命(早死)、2型糖尿病らの有害アウトカムのリスク増に関連している可能性が高いと報告しています。高所得国の一部では超加工食品摂取の占める割合が58%にも達しており、低・中所得国の多くでも超加工食品の摂取が急速に普及しています。これまで多数の研究報告、メタ分析が行われていますが、約1,000万人を対象者としたアンブレラレビューの報告はありません。 超加工食品摂取量が増えると心血管疾患関連死亡リスク比が50%増え、精神疾患オッズ比が55%増え、2型糖尿発症リスク比が12%増えることが示された。さらに、超加工食品の摂取量の増加は全死亡リスク比を21%、肥満オッズ比を55%、糖尿病オッズ比を40%、睡眠障害転帰オッズ比を41%、うつ病のハザード比を22%それぞれで増加させることが示された。コメント 本アンブレラレビューの研究者は超加工食品摂取量の正確な評価は難しい点もあり、さらなる研究の必要性を認めている。しかしながら、事前に指定した系統的な方法を用いて分析しているために、信頼性と品質評価は精査に十分に堪えうるとの自信をのぞかせている。今回の結果を重く受け止めて、超加工食品の安全性を無視した、利便性・時短性の追求のみに目を向けるのは危険です。超加工食品に関しては食質の吟味が重要になると考えられますので、経過措置として食全体に占める超加工食品の割合を可能な限り少なくして、当面は生活をするのが好ましい対処法ではと考えます。

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経口と長時間作用型注射剤抗精神病薬の有用性~ネットワークメタ解析

 長時間作用型注射剤(LAI)抗精神病薬は、主に統合失調症の再発予防に期待して使用されるが、状況によっては急性期治療にも役立つ場合がある。ドイツ・ミュンヘン工科大学のDongfang Wang氏らは、急性期統合失調症成人患者に焦点を当て、ランダム化比較試験(RCT)のシステマティックレビューおよびネットワークメタ解析を実施した。European Neuropsychopharmacology誌2024年6月号の報告。 対象薬剤は、リスペリドン、パリペリドン、アリピプラゾール、オランザピンおよびプラセボであり、経口剤またはLAIとして用いられた。17のその他の有効性および忍容性アウトカムにより補完し、全体的な症状に関するデータを統合した。エビデンスの信頼性の評価には、Confidence-in-Network-Meta-Analysis-framework(CINeMA)を用いた。 主な結果は以下のとおり。・分析には、115件のRCTより2万5,550例を含めた。・すべての薬剤において、プラセボと比較し、標準化平均差(SMD)が有意に良好であった。【オランザピンLAI】SMD:-0.66、95%信頼区間(CI):-1.00~-0.33【リスペリドンLAI】SMD:-0.59、95%CI:-0.73~-0.46【オランザピン経口】SMD:-0.55、95%CI:-0.62~-0.48【アリピプラゾールLAI】SMD:-0.54、95%CI:-0.71~-0.37【リスペリドン経口】SMD:-0.48、95%CI:-0.55~-0.41【パリペリドン経口】SMD:-0.47、95%CI:-0.58~-0.37【パリペリドンLAI】SMD:-0.45、95%CI:-0.57~-0.33【アリピプラゾール経口】SMD:-0.40、95%CI:-0.50~-0.31・有効性は、LAI抗精神病薬と経口剤との間で有意な差は認められなかった。・主要アウトカムの症状全体の感度分析では、これらの所見がほぼ確認された。・エビデンスの信頼性は、ほとんどが中程度であった。・LAI抗精神病薬は、急性期統合失調症に対し有効であり、副作用の観点で経口剤と比較し、いくつかのベネフィットが期待できる可能性がある。 著者らは「臨床医が急性期統合失調症患者の治療を行う際、本結果は経口剤とLAI抗精神病薬のリスクとベネフィットを比較検討するうえで役立つであろう」としている。

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うつ病における疼痛症状と抗うつ薬の治療結果~系統的レビューとメタ解析

 うつ病患者では、疼痛を伴う身体症状がみられることが多い。うつ病患者における疼痛を伴う身体症状は、抗うつ薬治療効果の低下と潜在的に関連している。中国・北京大学のJia Jia Liu氏らは、ベースライン時の疼痛レベルと抗うつ薬治療効果との関連を評価した。Molecular Psychiatry誌オンライン版2024年3月13日号の報告。 事前に登録したプロトコールに基づき、2023年2月までに公表された研究をPubMed、Embase、Cochrane Libraryのデータベースより検索した。うつ病患者のうち、抗うつ薬治療反応患者/寛解患者および非治療反応患者/非寛解患者における治療前の疼痛対策を報告したオリジナル研究を含めた。データ抽出と品質評価は、2人の独立したレビュー担当者によりPRISMAに従い実施した。主要アウトカムは、抗うつ薬治療反応患者/寛解患者と非治療反応患者/非寛解患者の間での治療前の疼痛レベルの差とした。ランダム効果メタ解析を用いてエフェクトサイズ(Hedge's g)を算出し、サブグループ解析とメタ回帰分析を用いて不均一性の原因を調査した。 主な結果は以下のとおり。・分析には、20件の研究を含めた。・6件の研究より、うつ病治療に対する非治療反応患者においてベースライン時の疼痛重症度レベルが有意に高いことが報告された(Hedge's g=0.32、95%信頼区間[CI]:0.13~0.51、p=0.0008)。・6件の研究より、疼痛を伴う身体症状(疼痛重症度尺度を用いて測定)と治療反応不良との有意な関連が認められた(オッズ比[OR]:1.46、95%CI:1.04~2.04、p=0.028)。・5件の研究より、非治療反応患者においてベースライン時の疼痛干渉レベルが有意に高いことが示唆された(Hedge's g=0.46、95%CI:0.32~0.61、p<0.0001)。・4件の研究より、非寛解患者のベースライン時の疼痛重症度レベルが有意に高いことが報告された(Hedge's g=0.27、95%CI:0.14~0.40、p<0.0001)。・8件の研究より、疼痛を伴う身体症状と非寛解との有意な関連が認められた(OR:1.70、95%CI:1.24~2.32、p=0.0009)。 著者らは「うつ病患者の疼痛を伴う身体症状は、抗うつ薬治療アウトカムと負の相関があることが示唆されたことから、うつ病治療を行う際、疼痛マネジメントを改善することで、抗うつ薬の治療効果を向上させる可能性がある」と報告した。

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第189回 紅麹サプリメント問題、無症状でも保険診療可能に/厚労省

<先週の動き>1.紅麹サプリメント問題、無症状でも保険診療可能に/厚労省2.オンライン初診での麻薬、向精神薬の処方制限強化へ/厚労省3.医療広告をさらに規制強化、事例解説書を更新/厚労省4.当直明けの手術を7割が実施、遅れる消化器外科医の働き方改革/消化器外科学会5.看護師の離職率は依然として高水準、タスクシフトや業務効率化を進めよ/看護協会6.未成年への経頭蓋磁気刺激治療(TMS)、専門家から倫理性に疑問/児童青年精神医学会1.紅麹サプリメント問題、無症状でも保険診療可能に/厚労省厚生労働省は、小林製薬の紅麹原料を含む機能性表示食品に関連する健康被害について、入院者数が延べ196人、受診者数が1,120人を超えたと発表した。この問題は国内で広がりをみせており、相談件数は約4万5,000件に上っている。厚労省は、無症状の人でも医師が必要と判断すれば、保険診療での診察や検査を許可する措置を講じた。立憲民主党は、このような健康被害があった場合に迅速な報告義務を課す制度改正を政府に要請する方針を明らかにした。また、小林製薬は、製品が安全に摂取できると言えないとの見解を示し、紅麹原料の製造過程で温水が混入するトラブルがあったことも公表したが、健康被害との直接的な関連は不明としている。この一連の問題に対し、消費者庁や厚労省は、紅麹を含む製品による健康被害の原因究明と、被害拡大防止のための対策を強化している。参考1)健康被害の状況等について[令和6年4月4日時点](厚労省)2)疑義解釈資料の送付について[その65](同)3)「紅麹を含む健康食品等を喫食した者」、無症状でも、医師が喫食歴等から必要と判断した場合には、保険診療で検査等実施可-厚労省(Gem Med)4)小林製薬「紅麹」、受診1,100人超 健康被害どこまで(日経新聞)5)健康被害で報告義務を=機能性食品、政府に要請へ-立民(時事通信)6)報告義務の法制化「必要あれば迅速に」 紅麹サプリ問題で武見厚労相(朝日新聞)7)紅麹製造タンクで温水混入トラブル、小林製薬「健康被害との関係不明」…公表2週間で受診1,100人超(読売新聞)2.オンライン初診での麻薬、向精神薬の処方制限強化へ/厚労省厚生労働省は、オンライン診療の適切な実施に関する新たな指針を公表し、特定の医薬品の処方に関する制限を明確にした。これにより、オンライン診療の初診では麻薬・向精神薬、抗がん剤、糖尿病治療薬などの特定薬剤の処方が禁止され、これらの情報を過去の診療情報として扱うこともできなくなる。この措置は、患者の基礎疾患や医薬品の適切な管理を確保するため、および不適切な処方を防ぐために導入された。オンライン診療では、患者から十分な情報を得ることが困難であり、医師と患者の本人確認が難しいため、安全性や有効性を保証するための規制が設けられている。厚労省は、新たな課題や医療・情報通信技術の進展に伴い、オンライン診療指針およびその解釈のQ&Aを更新し続けている。また、オンライン診療で糖尿病治療薬をダイエット薬として処方するなどの不適切な事例にも対処。これにより、医療機関はオンライン診療の際に、医師法や刑事訴訟法に基づく適切な手続きを踏むことが強く求められる。とくに、医師のなりすましや患者情報の誤りが疑われる場合は、警察との連携を含む厳格な対応が促されている。さらにオンライン診療では、基礎疾患の情報が不明な患者に対しては、薬剤管理指導料の「1」の対象となる薬剤の処方を避け、8日分以上の薬剤処方を行わないことで、一定の診察頻度を確保し、患者観察を徹底することを求めている。参考1)「オンライン診療の適切な実施に関する指針」に関するQ&A[令和6年4月改訂](厚労省)2)オンライン初診では麻薬や抗がん剤、糖尿病薬などの処方不可、オンライン診療の情報を「過去の診療情報」と扱うことも不可-厚労省(Gem Med)3.医療広告をさらに規制強化、事例解説書を更新/厚労省厚生労働省は、医療広告に関する規制をさらに強化を図るため、事例解説書の第4版を公表した。今回の改定では、誤解を招く誇大広告や、いかなる場合でも特定の処方箋医薬品を必ず受け取れるとする広告など、不適切な医療広告に対処する内容の改定となった。新たに追加された内容では、GLP-1受容体作動薬の美容・ダイエットを目的とした適応外使用に関する違反事例が散見されることに対応し、特定の処方箋医薬品を必ず受け取れる旨を広告することを禁止するほか、SNSや動画を含むデジタルメディア上での広告事例が含まれ、ビフォーアフター写真の説明が一切ないままの使用、治療内容やリスクに関する不十分な説明が禁止される事例が明確にされた。また、自院を最適または最先端の医療提供者と宣伝することも禁じられている。これらの更新は、患者が正確な情報に基づいて医療サービスを選択できるようにすることを目的とし、今後ガイドラインの遵守を求めていく。参考1)医療広告規制におけるウェブサイト等の事例解説書[第4版](厚労省)2)医療広告「自院が最適な医療提供」はNG 厚労省が事例解説書・第4版(CB news)3)「必ず処方薬が受け取れる」はNG、オンライン診療広告 厚労省、解説書に事例追加(PNB)4)2024年3月 医療広告ガイドラインの変更点まとめ(ITreat)4.当直明けの手術を7割が実施、遅れる消化器外科医の働き方改革/消化器外科学会日本消化器外科学会が、昨年学会員に対して行った調査で、消化器外科医が直面している厳しい労働環境が明らかになった。2023年8月~9月にかけて65歳以下で、メールアドレスの登録がある会員1万5,723名(男性1万4,267名[90.7%]、女性1,456名[9.3%])を対象にアンケート調査を行ったところ、2,923人(18.6%)から回答を得た。その結果、月に80時間以上の時間外労働を報告した医師が全体の16.7%に上り、さらに100時間以上と回答する医師が7.6%と、「医師の働き方改革」で定められた年間960時間の上限を超える勤務をしていることがわかった。また、当直明けに手術を行う医師が7割以上を占め、「まれに手術の質が低下する」と回答した医師が63.3%に達した。この結果は、過酷な勤務条件が医療の質に潜在的なリスクをもたらしていることを示唆している。さらに、医師の働き方改革が導入される直前の調査では、労働環境の改善がみられるものの、賃金の改善が最も求められていることが明らかになった。医師は、兼業が収入の大きな部分を占め、とくに手術技術料としてのインセンティブの導入を望んでいる。また、次世代の医師に消化器外科を勧める会員は少数で、これは消化器外科医を取り巻く環境に対する懸念を反映したものとなった。同学会では、労働環境の改善、とくに賃金体系の見直しは、消化器外科医の減少に歯止めをかけ、消化器外科の将来を守るために積極的に取り組む必要があり、今後も高い品質の外科医療を提供し続けるために不可欠であると結論付けている。参考1)医師の働き方改革を目前にした消化器外科医の現状(日本消化器外科学会)2)消化器外科医の当直明け手術、「いつも」「しばしば」7割超…「まれに手術の質低下」は63%(読売新聞)5.看護師の離職率は依然として高水準、タスクシフトや業務効率化を進めよ/看護協会2022年度の看護職員の離職率が11.8%と高い水準で推移していることが、日本看護協会による病院看護実態調査で明らかになった。正規雇用の離職率は11.8%、新卒は10.2%、既卒は16.6%と報告されている。医療・介護ニーズの増加と現役世代数の減少が見込まれる中、医療機関における看護職員の離職防止が一層重要な課題となっている。また、看護職員の給与に関しては、勤続10年での税込平均給与が32万6,675円となっており、処遇改善評価料を取得した病院では、看護職員の給与アップ幅が大きくなっている。この調査結果は、看護職員の離職率が高い状況を背景に、看護職員のサポートと業務効率化が急務であることを示しており、看護職員から他職種へのタスク・シフトを進めることの重要性を強調している。これにより、医療現場での働きやすさの向上と医療提供体制の確保が求められている。同協会は、看護師の離職防止のために看護業務効率化ガイドを公表し、医療現場での業務効率化の事例を紹介している。この中で、業務効率化のプロセスやノウハウを示し、医師の働き方改革を支える看護職員の業務効率化に焦点を当てている。具体的な業務効率化の取り組みとしては、記録業務のセット化や音声入力機器の導入などが示されている。参考1)「2023年 病院看護実態調査」結果 新卒看護職員の離職率が10.2%と高止まり(日本看護協会)2)「看護業務効率化先進事例収集・周知事業」報告書(同)3)新卒の看護職員10人に1人が離職 23年病院看護実態調査 日看協(CB news)4)看護業務を効率化するガイドを公表、日看協 ホームページなどに掲載(同)5)コロナ感染症の影響もあり、2021年度・22年度の看護職員離職率は、正規雇用11.8%、新卒10.2%、既卒16.6%と高い水準-日看協(Gem Med)6.未成年への経頭蓋磁気刺激治療(TMS)、専門家から倫理性に疑問/児童青年精神医学会日本児童青年精神医学会は、18歳未満の子供や若年層への経頭蓋磁気刺激治療(TMS)の使用に対し、「非倫理的で危険性を伴う」との声明を発表し、この治療法の適用に強い倫理的懸念を示した。とくに発達障害を扱う精神科クリニックが、適応外でありながら、専門家の適正使用指針に反して、未成年者への施術を勧めるケースが問題視されている。TMSは、頭痛やけいれん発作などの副作用が報告されており、子供への有効性と安全性については現時点でエビデンスが不十分とされている。日本国内では2017年9月に厚生労働省が医療機器として薬事承認し、治療抵抗性うつ病への対応として帝人のNeuroStarによるrTMSを承認したが、日本精神神経学会は、とくに未成年者への施術にはさらなる臨床研究が必要としている。今回、同学会が指摘した倫理的な問題としては、一部のクリニックが患者の不安を利用し、高額な治療費用のためにローンを組ませる事例がある。今回の声明は、未成年者へのTMS治療の実施に当たっては慎重な検討を求めている。参考1)子どもに対する反復経頭蓋磁気刺激(rTMS)療法に関する声明(日本児童青年精神医学会)2)反復経頭蓋磁気刺激装置適正使用指針(改訂版)(日本精神神経学会)3)「非倫理的で危険」と学会声明 子どもへの頭部磁気治療で(東京新聞)

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統合失調症患者の脳容積の長期的な減少と認知機能との関連

 統合失調症の脳バイオマーカーを確立することは、精神科医による診断サポートに寄与するだけでなく、疾患経過に伴う脳の進行性変化をフォローするうえで重要となる。最近の研究報告では、統合失調症患者の脳の形態学的特徴が示されており、健常な人と比較し、脳容積が減少した脳領域クラスターにより定義されている。この兆候は、統合失調症患者と健康な人を鑑別するうえで有効であることが証明されており、統合失調症の脳バイオマーカーの有望な候補であることが示唆されている。しかし、長期的な特徴については、いまだ不明なままであった。東京慈恵会医科大学の山崎 龍一氏らは、統合失調症患者の脳容積の変化が時間経過とともにみられるのか、それが臨床アウトカムと関連しているのかについて調査を行った。Neuropsychopharmacology Reports誌2024年3月号の報告。 主な結果は以下のとおり。・統合失調症患者では、健康な人における年齢に伴う自然な脳容積の減少よりも、より大きな減少を伴う脳の形態学的に有意な変化がみられ、この変化が脳の進行性の形態学的変化を表していることが示唆された。・さらに、脳の形態学的特徴の変化とフルスケールIQの変化との間に有意な関連が認められた。・IQが改善した患者では、脳の形態学的特徴が維持されていたのに対し、IQの改善が認められなかった患者では、脳の形態学的特徴に進行性の変化がみられた。このことから、知的能力の回復の可能性と脳病変の進行速度との関連性が示唆された。 著者らは、「脳の形態学的特徴は、統合失調症患者の認知機能障害と関連する脳の進行性変化を評価するために使用可能な脳バイオマーカーである」と結論付けた。

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筋力パラメータは不安・抑うつの予測因子となりうるか

 うつ病や不安症は、主要な公衆衛生上の問題の1つである。そのため、うつ病や不安症の症状予測因子を特定することは、症状悪化を避けるうえで重要となる。筋力や筋機能(握力、timed-stands testなど)は、健康アウトカムの予測因子として広く知られているが、うつ病や不安症との関連性は、十分にわかっていない。ブラジル・Santo Amaro UniversityのGabriella Mayumi Tanaka氏らは、握力やtimed-stands testスコアとうつ病および不安症の症状との関連を調査するため、コミュニティベースの横断研究を実施した。また、筋力レベルの高い人は、低い人と比較し、不安や抑うつ症状が軽減されるかについても調査した。その結果、筋力パラメータは、不安および抑うつ症状に関連する重要な予測因子である可能性を報告した。Clinical Nursing Research誌2024年3月号の報告。 対象者は、ソーシャルメディアを通じて募集し、半構造化面接を実施し、社会人口学的特徴、併存疾患、タバコおよび薬物使用、不安症状(Beck's Anxiety Inventory[BAI])、抑うつ症状(Beck's Depressive Inventory[BDI])を評価した。その後、身体的特徴、握力、機能性(timed-stands test)を評価した。 主な結果は以下のとおり。・評価対象者は216人。・調整済み回帰モデルでは、握力と不安症状(β=-0.22、95%CI:-0.38~-0.07、R2=0.07、p=0.005)および抑うつ症状(β=-0.25、95%CI:-0.42~-0.07、R2=0.05、p=0.006)との間に逆相関が認められた。・timed-stands testスコアと不安症状(β=-0.33、95%CI:-0.54~-0.13、R2=0.09、p=0.002)および抑うつ症状(β=-0.32、95%CI:-0.56~-0.09、R2=0.06、p=0.008)との間にも同様の関連が認められた。・筋力レベルが低い人は、高い人と比較し、BAI(9.5 vs.5.9、p=0.0008)およびBDI(10.8 vs. 7.9、p=0.0214)が高値であった。・timed-stands testスコアで層別化した場合、低スコア群は、高スコア群と比較し、BAI(9.9 vs.5.5、p=0.0030)およびBDI(11.2 vs.7.5、p<0.0001)が高値であった。

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